「これから起業をしようと考えているけど、何からしたらいいかわからない」という方に向けて、起業から開業までの手続きを、おもに税理士の目線で解説する「起業・開業の手引書シリーズ」第4回目のテーマは開業や会社を作ったら必要な届出書です。
個人事業者が開業したり、法人を設立したら、官公庁にどんな届出書を提出するのかご存知ですか?
提出しなくても影響のないものもあれば、提出しなければ税務上の特典を受けられず余分な税金を払うことになるものもあります。
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開業の届出書
開業の届出書は、個人事業者と法人では少し違います。
個人事業者の場合
原則的には、任意の開業日以後1月以内に、納税地を管轄する税務署に提出することが義務付けられていますが、遅れても不利益を被ることはありません。
[手続名]個人事業の開業届出・廃業届出等手続|申告所得税関係|国税庁
法人の場合
法人の場合は、設立後2月以内に納税地を管轄する税務署、都道府県税事務所、市町村に設立届出書を提出しますが、法人の場合も、提出が遅れても不利益を被ることはありません。
なお、法人の場合は、法人が設立されたという情報が登記情報により税務署に把握されていますので、この設立届出書の提出がなくても、税務署は法人の存在を知っています。
また、平成29年4月以降は、税務署については、会社の登記簿謄本のコピーを設立届書に添付する必要がなくなりました(都道府県や市町村は必要です)。
青色申告承認申請書
これも個人事業者と法人で、提出期限が違います。
個人事業者の場合
その年の前から業務をしていた場合の申告期限
その年から業務を開始した場合の申告期限
・・・その年の3月15日まで
・・・業務を開始した日から2月以内(4/1なら6/1が期限)
ここまではよくあるパターンですが、次は少しイレギュラーです。
・・・翌年2月15日
12月16日から12月31日までの間に業務を開始した場合には、提出期限が業務を開始した日から2月未満ですから注意が必要です。
[手続名]所得税の青色申告承認申請手続|申告所得税関係|国税庁
法人の場合
法人の場合は、個人よりもシンプルですが注意すべきところがあります。
設立日以後3ヶ月を経過した日と設立事業年度終了の日とのうち、いずれか早い日の前日
この前日というのがポイントで、いずれか早い日が事業年度終了の日だと、決算日の前の日が期限ですので注意しましょう。
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
源泉所得税は、源泉徴収の対象となる給与や報酬、配当を支払った月の翌月10日までに、税務署に納付するのが原則です。
ところが、小規模事業者の事務負担の軽減を考えて、給与等の支払対象者が常時10人未満の事業者については、この源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書を提出することによって、7月10日と1月20日の年2回とすることができます。
ただし、すべての支払が対象ではなく、給与、税理士・弁護士等に対する報酬、退職金が対象です。
これは、個人でも法人でも同じ様式で、この申請書を提出した月の翌月に支払った給与・報酬・退職金からが納期の特例の対象になります。
[手続名]源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請|源泉所得税関係|国税庁
給与支払事務所等の開設の届出
給与等の支払事務所を開設した場合に提出しますが、個人事業者については開業届出書を出すことによって、この給与支払事務所等の開設の届出を提出する必要はありません。
ですので、法人のみ提出することになります。
[手続名]給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出|源泉所得税関係|国税庁
減価償却資産の償却方法の届出
減価償却資産の償却方法は、定額法と定率法を選べる減価償却資産については、この届出書を提出しなくても決まっていて、個人事業者の場合は定額法、法人の場合は定率法です(法定償却方法といいます)。
ですので、この届出書を提出する場合は、個人事業者は定額法を定率法にしたい場合、法人は定率法を定額法にしたい場合になります。
一般的に、定率法の方が、資産の使用開始初期に多額の減価償却費を計上できるので、節税の観点から好まれやすいです。
提出期限は、開業年または設立事業年度の末日までです。
[手続名]所得税の減価償却資産の償却方法の届出手続|申告所得税関係|国税庁
消費税の課税事業者選択届出書
個人事業者や設立時の資本金の額が1,000万円未満の法人などは、基本的に開業年または設立事業年度は消費税を納める義務がありません(免税事業者)。
ところが、開業年または設立事業年度に高額な設備投資をしたりすると、場合によっては消費税の還付を受けることができます。
この場合、そのままでは消費税を納める義務がないので、還付を受けることができませんが、消費税の課税事業者選択届出書を、開業年または設立事業年度末までに提出すれば、消費税の納税義務者になり、消費税の還付を受けられます。
ただし、この届出書を提出するときは、翌年度以降の収支計画も含めて検討する必要があります。
この届出書を提出して、1,000万円以上の高額資産を購入した場合は、3年間は消費税を納める義務が免除されませんので、3年間の収支の見込みを立てておく必要があります。
場合によっては、この届出書を提出しない方がよかったという場合も想定されますので。
まとめ
提出が義務付けられているのは、個人事業の開業届出書、法人設立届出書です。
必ず提出した方がいいものは、青色申告承認申請書です。
場合によっては提出した方がいいものは、源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書、減価償却資産の償却方法の届出、消費税課税事業者選択届出書ですね。