「これから起業をしようと考えているけど、何からしたらいいかわからない」という方に向けて、起業から開業までの手続きを、おもに税理士の目線で解説する「起業・開業の手引書シリーズ」第2回目のテーマは会社を設立するなら株式会社か合同会社か?です。
会社の形態には、他にも合資会社や合名会社もありますが、比較的ポピュラーな株式会社と合同会社にしぼって説明します。
前回の記事はこちら
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株式会社
株式会社は、所有と経営が分離しており、株主=経営者の関係が必ずしも強制されていません。
中小企業では経営者が株主であることが多いので、株主=経営者の図式であることが多いですが、そうでなくてもいいんですね。
なので、出資しても役員になる必要はなく、役員に就任するのに出資する必要もありません。
ここは後述する合同会社とハッキリと違うところです。
また、株式会社は所有と経営が分離していることから、どうしても株主>経営者という関係が成立してしまいますので、株主から経営者クビの宣告をされることもあります。
株式会社のメリット
- 株主からの出資による資金調達がしやすい
- 株式の売買がしやすい
- 知名度があるので比較的イメージがよい
株式会社のデメリット
- 合同会社に比べ設立費用がかかる
- 経営者が株主に退任させられる場合がある(会社を乗っ取られる可能性がある)
- 維持運営に手間とコストがかかる
合同会社
合同会社は、所有と経営が一体となっており、株主=経営者の関係が強制されます。
つまり役員になるためには出資をしなければなりませんし、出資するためには役員になる必要があります。
また、議決権を出資の比率に比例させる必要がなく、出資が少なくても貢献度の高い人に対して、大きな議決権を与えることができます。
合同会社のメリット
- 株式会社に比べ設立費用が安くカンタン
- 維持管理に手間と費用がかからない
- 会社の機関設計や利益分配の自由度が高い
- いざとなれば株式会社に組織変更することができる
合同会社のデメリット
- 出資するためには役員になる必要がある
- 役員になるためには出資する必要がある
- 株式会社に比べ知名度が低い
株式会社と合同会社の比較
設立手続き
設立までの大まかな流れは似ているのですが、株式会社は公証人による定款の認証が必要なのに対し、合同会社は不要な点が大きな違いです。
この一手間がないため、合同会社のほうが設立までの期間と後述する費用の面で、設立しやすくなっています。
ちなみに、私は自分が代表を務める合同会社を設立したときは、定款の作成から登記簿謄本の受取りまでで、12日で完了しました。
設立費用
株式会社 | 合同会社 | |
---|---|---|
登録免許税 | 150,000円〜 | 60,000円〜 |
定款認証手数料 | 50,000円 | 0円 |
定款印紙代 | 40,000円(電子定款は0円) | 40,000円(電子定款は0円) |
定款謄本代 | 約2,000円 | 0円 |
実印・銀行印・角印 | 約10,000円〜 | 約10,000円〜 |
登記簿謄本・印鑑証明 | 1,650円〜 | 1,650円〜 |
合計(電子定款の場合) | 253,650円(213,650円)〜 | 111,650円(71,650円)〜 |
設立費用は圧倒的に合同会社の方が安いですね。
また、定款は電子定款にすると定款の印紙代が不要になりますのでオススメします。
電子定款をご自身で作成すると少しハードルが高めなので、ネットで探せば何千円かで電子定款の作成を代行してくれる行政書士事務所もありますので、利用してみてはどうでしょうか?
こちらの記事で、電子定款を行政書士事務所に依頼したときのことを書いていますので、参考にしてみてください。
運営管理
役員の任期
株式会社は、役員の任期を決める必要があり、最長でも10年で役員の選任をしなければなりません。
通常は重任といって、そのまま同じ役員が就任するのですが、その際に株主総会を開いて、役員変更登記をしなければなりません。
その際に登録免許税が1万円(資本金1億円超の法人は3万円)かかります。
また、役員変更の登記を忘れてしまうと、場合によっては法務局から罰金が課せられることもあります。
一方、合同会社は、役員の任期を決めなくてもよく、その場合、役員の就任や辞任がない限り役員変更登記をする必要はありませんので、登録免許税や役員変更登記の失念による罰金なども心配する必要がなくなります。
決算公告
中小企業だとあまりしているところはないのですが、実は株式会社は、決算が終わったら官報などに決算公告をしなければなりません。
決算公告とは、官報や新聞などに貸借対照表や損益計算書を掲示することなのですが、株式会社の場合、これが義務となっています。
もししなかった場合は、100万円以下の罰金が課せられることになっています(実際、課されたという話は聞いたことがないですが)。
これが合同会社だと、決算公告の義務がありませんので、手間もそんな心配をする必要もありません。
知名度・イメージ
Apple Japanなどの有名企業も合同会社であったりしますが、まだまだ知名度的には低いです。
もし、公告などを出したときに株式会社◯◯と合同会社◯◯だと、どちらを選ぶかと言われれば、よくわからない合同会社よりは株式会社を選ぶということもあります。
今後、合同会社の知名度が上がれば、流れが変わるかもしれませんが、現時点では株式会社>合同会社という図式です(Apple Japanも、HPでは合同会社という文字は見受けられませんでした)。
もし、会社名で事業を営むのなら、株式会社のほうが無難かもしれません。
ただ、会社名とは別に屋号を使うのであれば、合同会社でも知名度のハンデはないでしょう。
まとめ
株式会社にするか合同会社にするか、迷うところではありますが、合同会社では役員になるためには出資する必要がありますので、家族経営の会社など、所有=経営の会社で、家族以外の役員を就任させることのないスモールビジネスであれば、合同会社が向いているかもしれません。
一方、株式会社は、出資者以外の人を役員にしたい場合や、外部からの出資による資金調達をしたい場合など、今後ビジネスを拡大したい場合に向いているといえます。